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庭の王国への旅 33

2015年07月30日 20:34

 
      *           *


 歳をとればとるほどに、死ぬということについて考える機会は増えたが、本当に死と向き合った瞬間にどのような心境になるのかは、なってみなければ分からないことだ。

 老人はまず自分の体が押し潰されることに対する恐怖を感じた。

 肉が潰れ、骨がそれを突き破ることを想像しただけでたまらなかったが、それから、息ができないことへの恐怖が圧倒的に湧き上がってきて、潰される痛みのことについてはほとんど忘れてしまった。

 老人は口を開けようとしたが、顎は自分の胸だか脚だかにぴったりと押し付けられていていて一ミリも動かすことができなかった。

 鼻から息をいくら吸おうとしても、栓でも詰めてあるみたいに何も入ってこなかった。

 これはもう本当に死ぬのだ、と思った瞬間、ふっと老人は「楽にしてみよう」ということを思った。

 人が死を恐れるのは、その前段階としてある不自由や苦痛を恐れているのであって、死それ自体を恐れているのではない、たとえばある男が寝る直前まで元気に楽しく趣味に打ち込んでいて、おやすみと眠ってそのまま起きてこなかった、というような死に方をしたならば私は羨ましいと思う、死ぬ前の不自由や苦しみがなく、かつ、それらを味わう可能性への恐怖ももはやないのだから――というようなことを、なぜか緑茶を飲みながら熱弁していた黒髪の娘のことを彼は思い出した。

 苦しみがなければ、死は、恐るべきものではない。

 その苦しみが、できるかどうかは知らないが気持ちの持ちようで少しでも何とかなるものなら、そう、少しでもいい、楽にしてみよう……

 だがそれができたのはほんの数秒だった。

 やはり苦しいものは苦しかった。

 息ができないのに、楽にすることなどできるわけがない。

 息が吸いたい、もう一度、澄んだ冷たい空気を、鼻と口と喉に、肺いっぱいに感じて――

 老人は暴れた。

 暴れることができているではないか、ということに気付くと同時、それまで無音のように感じられた世界に、ごぼごぼという激しい音が戻り、全身の皮膚が水の冷たさを受け取った。

 目を開けば、そこは無明の闇ではなく、薄青い奇妙な光に満ちた水の中で、見開いた目の視界に、青黒い石の壁のようなものが映り、それから、そう遠くない場所に、鏡のような、大きな丸い光が見えた――

 あれは、水面ではないのか。

 老人は残る力を振り絞って脚をばたつかせ、水をかいた。

 視界がふっと霞みそうになった瞬間、ここを先途と伸ばした右手の指が、水面を突き破り、青黒い石壁のふちのような場所にがっちりとかかった。

 息が吸いたい、という根源的な望みが肉体を突き動かし、老人は信じられないほどの筋力を発揮して、自分の体を右腕一本で水面上に引き上げた。

「どぅおーおえっほあっはおっほおほう」

 そのような声を発しながら、老人はしばらくのあいだ、青黒い石のふちの上に上半身を引っかけた姿勢でいた。

 息ができるのだから、このまま、ここに一万年のあいだ引っかかっていてもよいという気がした。

 だが、彼はすぐに、もう一人のことを思い出した。

「アストっうおっほっほお」

「何の……呪文ですの……?」

 かすれた声が聞こえた。

 顔を上げ、首を左にねじ向けると、そこに星の娘が座っていた。

 彼女はもう、小さな少女ではなかった。

 藍色の衣に包まれた手足はすらりと伸びて、濡れてはりついた銀の髪の下にあるのは、疲れ切ったような若い娘の顔だった。

 彼女が腰かけている場所は、老人がやっとの思いで這いあがった青黒い石のふちだった。

 そこは小さな石造りの部屋で、何もかもすべてが継ぎ目のない青黒い石からなっており、四角い床の中央に大人の膝ほどの高さの石の輪があり、その中は池になっていた。

 老人と星の娘は、その池から這いあがってきたのだった。

 あたりはかすかなあかりに照らされていたが、上を見上げても照明の類は見えず、天井も見えず、一体どれほどの高さがあるのかは分からなかった。

 壁に、アーチ型の出入口が一ヶ所だけ開いていたが、その奥は暗く、どうなっているのか見えなかった。

 老人は水を吸って信じられないほど重くなった衣に苦労しながら、下半身をどうにか池から引きずり出し、池のふちに背中をもたせかけて息をついた。

 星の娘は、そのそばで、手を貸しに立ち上がる気力もないという様子でうなだれて座っていた。

「ここが、薔薇の城なのかのう?」

 老人はそう呟いたが、星の娘からの返事はなかった。

 ずいぶん長いこと経ってから、彼女は言った。

「あたくしたち……あの方を、犠牲にしてしまったわ。」

 それからまた彼女は黙り込んだ。

 老人は、彼女が再び口を開くのを待った。

 やがて彼女は言った。

「あれは、アウローラさんが望んだことだったの?」

「それは、分からん。
 だが、アウローラくんは、物語の――何と言ったかな――
 カ……そう、カルナ・ラサというものを――」

「何ですって?」

「インドの言葉で、物語によって表現される『悲哀の情趣』というような意味だそうじゃ。
 夜の王に略奪される乙女の物語は、まさしくそれを表すものなのかもしれん。
 この王国は、幼い日のアウローラくんが美しいと感じたもので成り立っておる。
 その美しさには、おそらく、悲哀や恐怖や、暴虐すらも含まれておる――」

「子供なのに?」

「子供だからこそ、その物語は、より本能的で、純粋なのかもしれぬ」

 それきり、会話は途切れ、二人は長いこと喋らなかった。

 老人は、不意に、重要なことを思い出した。

 彼は慌てて懐に手を突っ込み、中を探った。

 固いものに指先が突き当たり、取り出してみると、はたしてそれは砂漠の魔女からことづけられた、青紫色の小箱だった。

 水に浸かってしまったが、中身は無事なのか――

 指がうまく動かないほどに焦りながら蓋を開けると、砂糖漬けのボリジの花は乾いて、美しい星の形を保ったままだった。

 老人は星の娘の手に軽く触れ、振り向いた彼女に花をひとつ手渡すと、自分もひとつ取って食べ、箱の蓋をしっかりと閉めて懐にしまった。

 舌の上でしゃりしゃりと鳴る砂糖の感触を味わっていると、不意に、星の娘がさっと背筋を伸ばした。

 元気を取り戻したというわけではなく、緊張しているようだった。

「おじいさま、聞こえて?」

 彼女はアーチ型の出入口のほうに鋭い視線を向け、立ち上がった。

 その向こうから、固い靴の底が床を打つ音が近付いてきていた。

 星の娘の手が自然と腰の後ろに伸び、護身用の武器を探った。

「あたくし、さっき、これを使うべきでしたわ――」

 細い眉をきつくしかめながら、彼女はいつでも飛び出せるように身構えた。

 老人も立ち上がり、星の娘を援護するために相手に飛びかかるべく、出入口の脇へ回り込もうとした。

「撃たないでください!」

 だしぬけに、靴音が止まり、聞いたことのない声が響いた。

 穏やかそうな、男の声だった。

 老人と星の娘は、顔を見合わせた。

「誰なの!」

 星の娘が鋭く誰何した。

 男の声が答えた。

「私は、この城の者です。
 女王さま方と、この城を訪れてみえる方々のお世話をするのが私の仕事です。
 決して、怪しい者ではありません。どうぞ、武器をお引き下さい!」

 星の娘は眉を寄せ、老人をちらりと見た。

 老人が頷くと、彼女は構えていた武器を下ろし、片手に握ったままで言った。

「よろしいわ。ゆっくり歩いて、こちらにお入りなさい!」

「では、参ります。くれぐれも、私に打ちかかったりはなさらないで下さい。
 私は戦いたいのではなく、あなた方をご案内し、おもてなししたいのですから――」

 かつんかつんという足音が再び近付き、やがて、アーチ型の出入口をくぐって、ひとりの男が姿をあらわした。

 黒を基調とした服を着て、袖口と襟元を白いレースで飾り、ボタンのたくさんついた踵のあるブーツをはいた姿は、昔のヨーロッパの貴族の屋敷ではたらく上級の使用人のようだった。

 ただひとつ、にこやかな口元を残して、顔の上半分を白い仮面でおおっていることが奇妙だった。

 彼は出入口の真横に立っていた老人に気付いて驚き、一歩横にずれたが、すぐに気を取り直したようで、客人たちに向かって腕を開き、優雅に礼をした。

「ようこそ、ようこそ、おいで下さいました。
 この城にどなたかが訪れてみえたのは、女王さま方を除けば、お客さま方が最初。
 大変に嬉しく存じます。」

「最初ですって?」

「はい。」

 彼は喜ばしげに笑うと、肘を曲げ、片方の手のひらをさっと上に向けた。

 その手のひらの上に、八角形をした小さな金色のお盆があらわれた。

 お盆の上には、湯気をたてている小さな金色のカップがふたつ乗っていた。

「ここまでご到着なさるには、だいぶお骨折りなされたことでしょう。
 まずはお飲み物をどうぞ。」

「どうも。」

 老人はカップを取り、星の娘にも渡した。

 カップの中には、金や緑色に輝く、何ともつかぬ液体が入っていたが、その湯気の香りがあまりにも芳しかったので、老人も星の娘も、ほとんど一息で飲み干してしまった。

 その液体が胃に落ち込むと、濡れた体が中からぽっぽっと温まりはじめ、口の中や喉が爽やかになった。

「これ、お酒ですの?」

 星の娘が、名残惜しそうに唇をちょっと舐めながら訊いた。

「こちらは、女王さま方の庭の水盤に、太陽の光と草木の緑の映じたのを集めて、何日も煮詰めたシロップです。
 お客さまを歓迎するための特別な飲み物として、私が心を込めて作りました。
 ずいぶん長いこと寝かせましたので、少しはお酒のような風味が出ているかもしれませんな。
 味はいかがでしたか? 何しろ、お客さまにお出ししたのは、初めてなものですから。」

「素晴らしい味わいでした。」

 老人が言った。

「いかがです、あなたも一杯、おやりになっては?」

「いえ、とんでもない。……そうですか? では、ほんの少しだけお相伴にあずかりまして。」

 彼は左手を上げ、言葉どおり、小さな金色のスプーンに一杯だけ、特製のシロップを取り出した。

 上品にそれをすすり、彼は、パチンと唇を鳴らした。

「これは! ……いえ、どうも失礼を。
 我ながら、思ったよりも上出来だったものですから。」



【庭の王国への旅34へ続く】
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庭の王国への旅 32

2015年07月27日 22:59



              *              *

 そして、

「あたしは、砂浜にいるよ。」

 とだけ言い残し、老婆はさっさと岩壁を這い降りていってしまった。

 おそらく、妖精たちが教える道のことを、自分は聞かないほうがいいと考えたのだろう。

 老人は、ひとところに集まってじっとこちらを見つめている妖精の娘たちのほうに向き直った。

 まっすぐに相手の顔を見て、身体つきに目をやらないようにしながら、はっきりと言った。

「わしらは、薔薇の女神さまに会うために、薔薇の城に行きたいのです。
 どうか、道を教えてください。」

 妖精たちは互いに顔を見合わせた。

 言葉は一言も交わされなかったが、何らかの意思の疎通があったとみえて、ひとりが頷き、進み出た。

 ひときわ豊かな胸元と腰つきをした、青みがかった黒髪の美しいその娘は、洞窟の入り口のふちまで進むと、すっと指を動かして、崖の上と、湖を順に指差した。

「ふたつ?」

 それぞれを指差すときに、充分な間があったので、老人は妖精の娘の身ぶりをそう解釈した。

「道が、ふたつあるのですか?」

 娘は頷き、そのまま、老人の次の質問を待つようにじっと彼を見つめた。

「……道は、ふたつあるそうじゃ。」

 老人は星の娘に向き直り、そう繰り返した。

「崖の上の道と、湖の道というわけね。」

 星の娘は、少し不自然なくらいにてきぱきと指を折りながら言った。

「崖の上の道というのは、あれじゃないかしら?
 ほら、おじいさまが話してくださった黒髪の若者の話の中で、彼が通った道。
『鎧を着た獣たちのうろつく影の森を抜け、不思議の湖の妖精たちの助けを受け、鷲たちの襲いかかる切り立つ峰に登り、その頂上で、薔薇の城の鉄壁の守りである大蛇と戦った――』」

 シュリーマンの前でホメロスの詩を暗唱してみせたソフィアのように、星の娘はすらすらと言い、それから顔をしかめた。

「でも、その道を行くには、鷲たちと戦ったり、大蛇と戦ったりしなくちゃならないのでしょう?
 あたしたち、無事に通れるとは思えないわ。」

「そうじゃな。」

 ここまでは老婆が守ってくれたが、彼女は、これより先には行かないと、きっぱりと態度で示している。

 この先は、おそらく、王国に住む者は行くことのない道なのだ。

 老人は、もう一度、妖精の娘に向き直った。

「わしらは、湖の道を行きます。」

 その言葉で、妖精の娘たちのあいだを目に見えぬさざなみが走ったように思われた。

 その反応は、明らかに不吉さを感じさせるものだった。

「危険がありますか?」

 老人が問うと、娘たちは一斉に頷いた。

「その道というのは……湖の、底にある?」

 彼女たちは、また頷いた。

「溺れるかもしれないということですか?」

 妖精たちは長い髪を揺らしてかぶりを振った。

 青みがかった黒髪の娘が進み出て、洞窟の入口にふわりと据えられていた巨大な泡に手を触れた。

「これに、乗っていくということ?」

 星の娘が、これまでの反感を忘れたような顔で言った。

「そうだわ、この泡、滝の水を浴びても平気だったもの。
 あたしたち、これで、潜水艦みたいに湖に潜っていけるんだわ!」

 妖精の娘は頷き、自分が先頭にたって泡に入ろうとした。

 別の妖精の娘が駆け寄り、その白い腕を掴んで引き留めた。

 青みがかった黒髪の娘はかぶりを振り、すがりついた娘をなだめるように、その腕に手を置いた。

 そして、哀しげに見つめながらゆっくりと相手を押し離すと、自分は静かに泡の中に入っていった。

「どういうことなの?」

 星の娘は、いくらか二の足を踏む調子で言った。

「まるで、もう二度と会えなくなるみたいじゃない。」

「本当にそうかもしれんぞ。」

 老人は厳しい顔で言った。

「これより先の道は、王国の住人は通ることのできない道なのかもしれん。
 仮に、通れたとしても、もう戻ることはできないのかもしれん。
 ……お嬢さん。」

 泡の中から見つめてくる娘に、老人は真剣な顔で言った。

「あなたはご親切にわしらのために道案内をしてくださるおつもりのようじゃが、これより先の道が、もしもあなたにとって非常に危険な、引き返すことのできぬ道であるというのならば、無理においでいただくには及びませんぞ。
 この泡さえ貸していただければ、わしらは、何とか自分たちで道を見つけて行きますから。」

 妖精の娘はかぶりを振った。

 彼女は手を伸ばして星の娘を指し、それから彼女と老人を結び合わせるような仕草をして、その手をすっと上へ振った。

「あたしたち、ふたりで……上へ?」

 星の娘は困惑して顔をしかめた。

「ええ、そうよ、あたしたちふたりで行くわ。
 だから、おねえさんは降りてくれていいのよ。」

 だが、彼女は降りようとはしなかった。

 他の妖精の娘たちが近付いてきて、星の娘と老人の背中を押し、泡の中へ押し込んだ。

 青みがかった黒髪の娘は決然と滝のほうを向き、それと同時に音もなく泡が浮いて洞窟の床を離れた。

 彼女のきっぱりとした態度に圧倒されて、星の娘も老人も、それ以上何も声をかけることができなかった。

 他の妖精の娘たちが洞窟の入口に並んで立ち、哀しげな表情でじっと見下ろしているのが泡の膜ごしに見えた。

 入ってきたときと同じように、少しも衝撃を感じることなく厚い水の壁を通り抜けた。

 砂浜に立つ老婆が、大きく槍を振り、別れのあいさつを送っていた。

 腕を振り返すふたりと、妖精の娘をのせて、泡はゆっくりと湖の水面に向かって降りていった。

 水面は薄く油を流したような虹色の輝きを帯びていて、見下ろしても、水の中の様子は分からなかった。

「おじいさま。」

 いくらか詰まったような声で星の娘は言ったが、それは老人にというよりも、彼に話しかけるようなふりをして、妖精の娘に問いかけているのだった。

「水の中には、何か生き物がいるのかしら?
 たとえば、貝だとか、蟹だとか……ものすごく大きな、肉食の魚だとか。」

「さあ、分からん……入るぞ。」

 泡が水面に触れた瞬間、曇りガラスに水滴を落としたときのように水面が透き通り、湖の底までがくっきりと見えるようになった。

 星の娘と老人は、同時に足をぴくりと動かした。

 泡が破れて水の底に沈んでしまうのではないかと恐れたためだが、泡はまるで水晶の玉のように完璧な球形を保ち、ゆっくりと湖の底へ沈んでいった。

 湖の底は、岸辺に近いあたりは生成り色の美しい砂におおわれていたが、深くなるにつれて灰色のごつごつとした岩が目立つようになり、荒々しくも恐ろしい風景に変わっていった。

 湖はすり鉢状に深さを増していき、辺りは少しずつ薄暗くなってきた。

 星の娘は、おそらく意識せずにだろうが、老人の服の袖をずっと掴んでいた。

 最も深いあたりには、ほとんど光が届いておらず、まるで比重の大きな漆黒のインクが沈殿しているように見えた。

 老人は、その暗い影をじっと見つめているうちに、それが、渦を巻いて動いているように見えてきて、激しく目をこすった。

 いや――目の錯覚ではない。

 その暗闇は、実際に動いているのだった。

 いきなり、まるで墨壺が噴火したみたいに、真っ黒な影が凄まじい勢いで噴き上がってきた。

 星の娘は悲鳴をあげ、老人はもう少しで後ろ向きに引っくり返りそうになった。

 妖精の娘は、きっと唇を結び、噴き上がった真っ黒な影を見つめていた。

 泡の膜の向こうで、影の中からぞっとするほど白い痩せさらばえた手が突き出し、その身を隠していた漆黒のマントを払いのけた。

 黒い鋼の冠をいただいた、蒼白い顔の夜の王は、ゆらゆらと黒いマントをゆらめかせながら、泡の中にいる三人を見据えてきた。

 その目は恐ろしく冷たく光り、まっすぐに見返すことができないほどだった。

『俺の国を、通り抜けようとする者は誰か?』

 夜の王の声は、水の中で金属が打ち鳴らされる音を聞いたときのように、奇妙にくぐもって聞こえた。

「あ、あたし、あたしたちは――」

 老人は驚いて、横を見た。

 星の娘は、目を閉じて、両耳をきつく押さえながら叫んでいた。

 まるで、自分の空想の中のお化けを追い払おうとする、小さな子供のように。

「あたしたちは――薔薇のお城に行くのよ!
 あんたの国になんか、行きたくないわ!」

 ごぼごぼと泡の立ちのぼるような音が響いた。

 それが夜の王の笑いだった。

『薔薇の城へ行くために、湖の道を通るならば、俺の国を通り抜けるということだ。
 取り決めの通りに、捧げものをもらおう。
 俺の新しい花嫁を差し出せ。』

「……何ですって。」

 星の娘が、目を開いた。

 彼女は怒りに背中を押されてすっくと立ち、肩をいからせて、夜の王に食ってかかった。

「あんたは、もう、大勢の奥さんをもってるじゃないの!」

『俺の宮殿には美しい乙女を迎える部屋がまだいくらでもある。』

 夜の王は星の娘の怒りを面白がるように言った。

「ふざけないで!
 そんなふうに軽々しく何人も奥さんをもつなんて、女の人に失礼だと思わないの。
 あたしたちを通しなさい、あたしたちは、あのひとの知り合いなんだから!
 あんたなんて、すぐに、やっつけてもらえるんだから!」

『この夜の王を倒すほどの者とは誰か?
 命ある者の全てが死に絶えたとしても、俺は決して滅びることはないというのに。』

「一の女王陛下の名にかけて。」

 そう口にした時の星の娘は、まるで本物の女王のように堂々としていた。

「あんたは、あたしたちを通さなくちゃならない。」

 夜の王はその名を聞いて驚いたように、少し目を見開いた。

 それから、彼はゆっくりとかぶりを振った。

『娘よ、一の女王は、かつてこう言ったのだ。
 この王国の空と地上とをしろしめす者は、薔薇の城の主。
 そして、この王国の地下と深い水の底とをしろしめす者は、夜の王であると。』

 星の娘は、しばらくのあいだ、信じられないという顔で突っ立っていた。

「あんたは……アウローラさんの友だちなの?
 アウローラさんが、あんたがこんなことをするのを許可したっていうの?」

『俺は俺の暗い国を支配し、強い戦士たちと美しい乙女たちを集める。
 俺の国は地上に広がる草原や空と同じほど深く、広い。
 光が強くなれば影は濃くなり、地上の木が高くそびえれば、それだけ根は深くなろう。
 娘よ、そなたを、俺の国へ連れて行こうか――』

「嫌よ!」

 しゃがみこみ、金切り声で叫ぶ星の娘に向かって、夜の王が手を伸ばした。

 その手の前に、妖精の娘が両腕を開いて立ち塞がった。

 彼女は震えていたが、その見開かれた目は夜の王の目をまっすぐに見返し、瞬きすらしていなかった。

「だめ――」

 星の娘が叫んだが、その声は弱々しくかすれた。

 夜の王の手が泡の膜を突き抜け、妖精の娘の腕を掴んだ。

『よかろう、この娘をもらってゆくぞ。』

 老人が反射的に手を伸ばし、星の娘は娘の脚に飛びついて引き留めようとしたが、無駄だった。

 泡の外に引きずり出された妖精の娘の体に、夜の王の黒いマントが絡みついた。

 いけにえの獣のように腕と脚を開かされた妖精の娘を見て、夜の王は満足げに笑い、彼女に口づけをした。

 妖精の娘の目から光が消え、その四肢からぐったりと力が失せた。

 とぐろを巻く大蛇のように黒いマントが激しくうねり、その体を完全に呑みこんでいった。

『乙女は捧げられた。』

 夜の王の顔もまた、マントのうねりの中に沈んでいった。

 映像を二倍速で巻き戻すみたいに、漆黒のうねりは渦巻きながら収束していき、それまではほとんど静止していた辺りの水もまた、ごうごうと渦を巻いて湖底へと吸い込まれはじめた。

 ぐるぐると回る泡の中で、星の娘は頭を抱え、呟いていた。

「あたし――あのひと、あたしの代わりに――」

 老人は、星の娘の体をしっかりと抱きかかえた。

 インクの中に飛び込んだみたいに、辺りは完全な闇になり、水圧が増したためか泡が縮んで、ふたりは押し潰されそうになった。

「アストライアくん、手を離すな……」

「あたし、許せないわ、帰ったら絶対に、アウローラさんを引っぱたいてやる……」

 ふたりは顎が膝のあいだに入るほど体を押し縮められて、目も耳もきかなくなり、やがて、息さえもできなくなった――



【庭の王国への旅33へと続く】

マルジナリア!

2015年07月25日 23:24

 お久しぶりでございます!

 地上における業務と家事とでバタバタしておりまして、なかなか出現しなかったアウローラです(汗)

 しかも暑い!!

 本日は久々の全日フリーデイだったのですが、疲れと暑さのダブルパンチで、完全なる置物状態になっておりました(笑)


 ――そして本当にどうでもいい話ですが、最近、澁澤龍彦(しぶさわたつひこ)さんの『マルジナリア』という本を読みました。
 
 澁澤龍彦さんは、わたくしの中では「ジャン・コクトーさんの『ポトマック』を訳してくれた人」という位置づけだったのですが、いろいろな本を読んでいるとちょいちょいお名前をお見かけするもので、ご本人の本も読んでみようというわけで、たまたま本屋で見つけた『マルジナリア』からスタート。

 で、マルジナリアってのは一体、何だろう?

 中身はエッセイ集という感じで、読書ノート的な文章や、旅行記的なものなど内容はいろいろ。

 わたくしは3秒ほど考えて、響きが似てるから、多分『マージナル(辺境)』のことじゃねーかな? と自分の中で結論付け、そのまま読み進めました。

 そしたら、あとがきに、

“マルジナリアとは、書物の欄外の書きこみ、あるいは傍注のことである。エドガー・ポーは本を買うとき、なるべく余白が多くあけてあるような本を買って、……” ――澁澤龍彦『マルジナリア』より

 とありました。

 マージン(余白)のほうだったんかい。

 と、まあ、それだけならば「あ、そうだったんだ~」で済む話なのですが……

 この『マルジナリア』の一番初めにのっている「カンパーニア」という文章が、ざっくり言うと、

 美術館の出品作品の題名で、イタリアの地名「カンパーニア」が、ドイツ語の「戦場」と誤訳されていた。
 ちょっと単語が似てるからって……描かれてるもの見りゃ分かるだろ、普通。
 訳したやつバカじゃねーの?


 という感じの内容だったので、なんか反省しました(笑)

 これは……澁澤先生による、わたくしへのテロ……!?(←絶対違う)

 あまりにもタイミング(?)が良すぎて、地味に印象に残る出来事でした。

 語学は本当に難しいですね……

 翻訳家の方々への尊敬を新たにすると同時に、わたくしたち読者は「その人の誤訳をそのまま信じて読んでいる」可能性も多いにあるな……と感じました。

 
 ――と、雑然たる近況報告(?)となりましたが、今回のところはこのへんで!

 明日もまた出動だ……!

 下記事に拍手、ありがとうございました☆(拝)

 また次回の記事で、お目にかかりましょう!

庭の王国への旅 31

2015年07月19日 00:16


          *              *


 老婆はさっさと歩き出し、水辺を右回りにまわって岩壁に近付いていった。

 老人と星の娘は、その後にしたがった。

 砂浜が岸壁と突き当たるところ、ちょうど崖の真下まで来ると、老婆はそこに自分の槍を突き刺し、かわりに、砂の上に横たえてあった数本の細長い棒を束にして取り上げた。

 槍よりもずっと長いその棒は、長年の雨風にさらされて黒ずみ、持ち上げられると少しばかりしなった。

「ここに来たときは、いつもこれを使うんだ。
 ぼろに見えるだろうが、頑丈だよ。しなるが、折れやしない。」

 老婆はそう言い、鋭い目で岩壁を見上げた。

 この位置に立てば、滝をほとんど真横から見ることができた。

 厚いカーテンのような水の膜の後ろに、壁面にあいた洞窟の入口があるのが分かった。

 洞窟の入り口は、ずいぶんと高いところにあり、大人の男を7、8人、たてに並べれば、ようやく手が届くかどうかというところだった。

「あんたたちは、ちょっと、ここで待ってな。」

 老人と星の娘が目を見開いて見守るうちに、老婆は驚くべき離れ業をやってのけた。

 ふところからロープの束を取り出すと、その端をするすると引き出し、長い棒の束を自分の背中にくくりつけて担ぐ。

 あまったロープの束を肩に引っ掛けると、老婆は岩壁に両手両足でとりつき、蜘蛛のように崖を登りはじめた。

 崖の面には、多少の凹凸はあるものの、濡れて光り、滑りやすそうで、並の人間が指や爪先をかけることができるとは思われなかった。

 長年の仕事の中で培われた確かなわざで、老婆はゆっくりとだが着実に手がかりを見つけて斜め方向に岩壁を登り続け、あるところまで来ると、片手を離してだらんと垂らした。

 それから、その手で背中の棒を一本、するすると引き抜き、自分が今いる場所のわずかな岩の出っ張りに端をはめ込み、反対側の端を、滝に近付く斜め上方向の出っ張りに引っ掛けた。

 老人と星の娘は、その集中をそぐことを恐れて声をかけることもせず、老婆の動きをじっと見守った。

 斜めに渡した棒を幾度か押さえてみて、安定していると分かると、老婆は今度はその棒を足がかりにしながら、さらに速く崖を登っていった。

 棒の端まで来ると、片手だけで次の棒を引き出し、また斜め上方向に渡して、そこを踏んで登ってゆく。

 とうとう、老婆の姿が滝の裏側に入り込み、その骨ばった手ががっちりと洞窟の入口にかかった。

 老人と星の娘は、詰めていた息をほうっと吐いた。

 老婆はそのままの姿勢で、しばらくじっとしていたが、やがて一気に体を引き上げて洞窟の中に入り込み、姿を消した。

「すごいわ。」

 星の娘が、感に堪えないというふうに言った。

「ロッククライミングの技ね。
 あんなこと、大人の男の人にだって、できやしないわ。」

「ただ登るだけではなく、足場を設置しながらとはのう。」

 老人も、心からの感嘆を口に出した。

「まず並の人間にできるものではないな。
 普通は、はじめの1mを行かぬうちにドボンと落ちてしまうじゃろう。」

「……もしかして、おばあさま、あたしたちに同じところを登ってこいって言うんじゃないかしら。」

 星の娘は不安げな顔になった。

「いくら何でも、こんなところを登れないわ。
 それに、あたし、泳げないの。湖に落ちたら、溺れてしまうわ!」

「わしも、登れないと思う。」

 老人は言った。

「だが、あのひとも、そんなことは期待しとらんじゃろう。
 あのひとが話をつけて、妖精たちのほうが、こちらへ出てきてくれれば――」

 そのとき、洞窟の入り口から老婆が顔を出した。

「おーい、あんたたち!」

 大きく手を振って、彼女は言った。

「妖精たちと、話がついたよ。
 今から、ひとり、そっちへ降りていくから、一緒に上がっておいで!」

 それだけ言って、老婆は引っ込んだ。

 しばしの間があって、今度は、美しい娘が姿を現した。

 娘が何ひとつ身にまとわない裸の姿であることに気付いて、星の娘は、まあ、と声をあげた。

 昨夜の娘に似ている、と老人は思ったが、確信は持てなかった。

 洞窟の入口に立った妖精の娘は、どこか憂いを帯びたような目でふたりを見下ろすと、目の前の滝に向かって腕を広げ、宙をかくような奇妙な身ぶりをした。

 すると激しい滝の流れから、大きな虹色の泡が生まれた。

 娘は泡の膜を破ることなく、その中に飛び込み、ゆっくりと砂浜のほうへ降りてきた。

 虹色の泡は湖の水面には触れず、砂の上に着くか着かないかのところで止まった。

 老人と星の娘を、妖精の娘は何も言わずに泡の中から見つめていたが、ややって急に腕を伸ばし、膜を突き抜けてふたりの腕を掴んだ。

「何をするの!?」

 星の娘が鋭く叫んだが、妖精の娘の力は驚くほど強く、ふたりはたちまち泡の中に引き込まれてしまった。

 滝の音が少し小さく、くぐもって聞こえ、泡の中から見る景色は巨大なレンズを通したときのように歪んでいた。

 妖精の娘は一言も発さずに、洞窟のほうを見た。

 虹色の泡は、妖精の娘と、老人と星の娘を中にのせたまま、ふわりと砂浜を離れ、洞窟の入り口のほうへと浮かびあがっていった。

 滝をくぐり抜けるとき、星の娘が小さく息を飲む音が響いた。

 だが予想したような衝撃はなく、まるで霧の中を抜けるように何の抵抗もなしに、泡は洞窟の入口に着いた。

「わしも、この中には初めて入ったよ。」

 先に着いていた老婆が、ふたりを出迎えた。

 妖精の娘が目で促し、老人は思い切って泡から踏み出した。

 入ったときと同じように、膜は破れることはなかった。

 一瞬、全身に水が吸い付くような奇妙な感覚があって、老人は洞窟の床を踏みしめて立った。

 洞窟の入り口は広く、中も思っていた以上に奥行きがあり、壁と天井はごつごつとした天然の岩壁だったが、床は剣の一閃で斬られたように平らで、曇った鏡のように鈍く反射してさえいた。

 天井からは、湧水か、滝のしぶきか、無数のしずくが絶えず落ちて床を流れていた。

 奥には、似た姿をした何人もの妖精たちがあるいは立ち、あるいは座り、じっとこちらを見つめていた。

 彼女たちはみな、人間でいえば若い娘の姿をしており、一糸まとわぬその姿は淡い紅色の燐光を帯びていた。

 彼女たちの、どこか憂いを帯びた、物言いたげな眼差しに遭って、老人は落ち着かない気分になってきた。

 星の娘は、少し攻撃的な顔つきになっていたが、彼女たちに見つめられているうちに気後れがしてきたのか、ぷいと顔を背けた。

「旅人の若者は、奥にいるそうだよ。」

 ひとり、何も気にしていないような調子で、老婆が言った。

「今は眠っているそうだ。無事だよ。」

「なぜ、それが分かったのですかな?」

 老人はこれ幸いと、老婆に顔を向けて訊ねた。

「こちらの――方々は、ものを言わないということだったが。」

「確かに、喋らないが、あたしたちの言っていることは分かるんだ。
 あの若者はどこにいるのかと訊いたら、奥を指差して、眠っているという身ぶりをしたよ。
 多分、妖精の眠りというやつだろ。
 妖精に関わった者が、いつの間にか深く眠りこんでしまって、気がついたら何日も過ぎていたという話が、よくあるじゃないか。」

 老人は頷き、洞窟の奥に向かってゆっくりと歩き出した。

 星の娘も、慌てて後に続いた。

 妖精たちはじっと老人たちに目をあてたまま、ほんの少しずつ下がり、彼らを通した。

 洞窟の奥には、細いつる植物で編まれた濡れたカーテンがさがっていた。

 老人が、その端にそっと手をかけて持ち上げると、中にいた妖精の娘がさっと顔を上げてきた。

 その部屋の中央には、ヒカゲノカズラのようなもので編まれた寝床がしつらえられており、妖精の娘はそのかたわらで、濡れた床の上に座っていた。

 寝床の上には、旅人が裸で眠っており、その体にはカーテンと同じつる植物で編まれた布がかけられていた。

 妖精の娘は、布から突き出した旅人の手をしっかりと握っていた。

 老人は一瞥しただけで、ふたりのあいだに何があったかを悟った。

 老人の背中越しに中の様子を見た星の娘は、真っ赤になって後ろを向いた。

「行こう。」

 老人は礼儀正しく目を逸らして頭を下げると、ぎくしゃくとしている星の娘の背中を押して入口のほうへ戻っていった。

「まあ、あんな――」

 星の娘は、ひどく傷ついたような顔をしていた。

 彼女は、信じられないというように呻いた。

「だって――ここは――この国にアウローラさんがいたのは、小さな子供の頃だったはずでしょう?」

「子供でも、何も知らぬわけではないよ、男と女のあいだのことをな。」

 老人は肩をすくめた。

「多くの物語を知る者なら、なおさらじゃ。
 神話にも、騎士たちの物語にも、そういったことは数多く描かれておるじゃろう?」

「でも……」

「さてと。」

 入り口に腰を下ろして待っていた老婆が、立ち上がり、何でもなさそうに言った。

「それじゃ、これから、あんたたちが行く道のことを訊かなきゃね。
 ここより先のことは、あたしは知らんから。」



【庭の王国への旅32へと続く】

久々の「バトンへの回答」!

2015年07月17日 20:32

 本日、わたくしの地上の活動圏内では、幸いにも台風による大きな被害はありませんでした。

 というか、警報が出る中、普通にフル業務でした……

 まあ、滞りなく業務が行える状況であったということ自体に、感謝せねばなりませんね。

 
 そして、私信返しですが――

 両性こたつむり様! コメントありがとうございました☆(拝)
 昨日のうちに訂正は完了していたのですが、御報告が遅くなりました……!
 フォントなどが変わることによって、原稿をいっそう客観的に見ることができるようになり、今まで気付かなかったミスに気づく……ということは、わたくしにもよくあります。
 ブログでは『イオリア物語』が進展していますね。
 理音さん……大丈夫なのか!?
 ドキドキハラハラの展開に、目が離せません!
 わたくしも、『スパルティアタイ』の物語を完全確定できるよう、がんばって参ります~!!
 

 ――そして!

 今回は久々に、バトンへの回答をつけてみました。

 物語の書き方にはそれぞれの流派(?)があり、人によってまったく考え方が違うところが面白いですね。

 他の皆さんのお考えも、ぜひ知りたいところです……☆


 というわけで、本日のところはこのへんで。

 下記事に拍手、ありがとうございました!(拝)

 また次回の記事で、お目にかかりましょう☆ 

小説書きさんに聞きたい事バトン

Q1 小説を書く時に始めにする事は何ですか。
A1 PCの電源をつけてwordを立ち上げることです。――ん? そういうことではない?
Q2 プロットはどの程度まで書き込みますか。
A2 作品によりますが、プロットは脳内にとどめ、あまり出力せずにスタートした方が、その後の進みがいい気がします。
Q3 キャラの名前や設定はどうやって考えますか。
A3 完全に神託任せです。いつも、だいたい10秒くらいで決まります。
Q4 キャラのセリフや仕草などの書き分けのコツありますか。
A4 喋り方にせよ仕草にせよ、「癖」を持たせること。あとセリフの書き分けは一人称の違いに依ることも多いです。
Q5 一人称と三人称の書き分け方、地の文書く時に気を付けている事は何ですか。
A5 後半の質問に対して、「同じ表現が重ならないようにすること」「五感を意識すること」です。
Q6 情景描写や心理描写のコツや勉強法はありますか。
A6 いろいろな本を読み、豊かな表現に触れることです。わたくしは外出先にも常に本を持ち歩き、移動中に読んでいます。
Q7 やってはいけない事は何ですか?
A7 盗作、無断転載の類は厳禁です。
Q8 小説を書く時に自分なりの書き方、コツがあったら教えて下さい。
A8 寝る前よりも、寝た後に書いたほうがいいですよ!!
Q9 上手いなと思う小説を教えて下さい。
A9 同志の作品を推して蝉川夏哉さんの『異世界居酒屋のぶ』。随所にちりばめられたネタと中世の知識が楽しい! 何より、料理がおいしそうです☆
Q10 最後に一言。今まで書いた作品の一文でもいいので何か書いて下さい。
A10 色とりどりの宝石を深い水の底に沈めたように、街の灯が輝いている。 ――『ORDER‐OFFICE 101』の冒頭です!

庭の王国への旅 30

2015年07月14日 19:38

           *           *          * 


 長く黒いとげが自分の体を刺しつらぬく瞬間を想像して、老人は歯を食い縛り、思わず目を開けた。

 いつ、とげがわが身に突き刺さるかという恐ろしさに耐え切れず、見ずにはいられなかった――

 目の前に、茨の壁はなかった。

 えっと思う間もなく、急に足元が沈み込むような感覚があって、彼は顔面から地面に突っ込んだ。

 星の娘を背負ったままの腕を、とっさにぎゅっと締め付けてしまい、前に突き出すことができなかったのだ。

 驚くほどやわらかな感触があって、次の瞬間には、彼は自分が大量の砂の上に突っ伏したことに気付いた。

 慌てて身を起こし、鼻と口に入り込んだ砂を吹き出し、吐き捨てる。

 反射的に瞼を閉じたために、目だけは無事だった。

 彼らが倒れ込んだ場所は、美しい砂浜だった。

 顔を上げてみると、目の前には静かに輝く水面が広がり、その奥には、暗い灰色の岩壁が垂直にそそり立っていた。

 岩壁の上から、幅の広い滝がどうどうと流れ落ち、水面に絶え間ない波紋を生み出している。

 ボートにでも乗れば、滝のしぶきがかかるあたりまで、すぐに行くことができそうだった。

(湖と呼ぶにしては、ずいぶんと小さい――
 これでは池か、泉と呼んだ方が近いな。)

 反射的にそんなことを思った老人のかたわらで、星の娘が息を飲む音がした。

 慌てて振り向くと、茨の壁の向こうに、灰色の山のような《獣》の巨体が動くのが見えた。

 茨の壁は遥かに見上げるほどの高さがあり、今まで通ってきた森と、こちら側とを完全に隔てていた。

 と、絡み合った茨の一部が、木のてっぺんほどはあろうかという高い位置で音もなく円く開き、そこから、老婆が必死の形相で飛び込んできた。

 茨の扉は生きているかのような動きですばやく閉まり、振り下ろされた《獣》の爪の一撃を難なく防いだ。

 まるで鋼鉄で編まれているかのように、たわむことも、揺らぐことさえもなかった。

 老婆は空中ですばやく横手に槍を放り捨て、両手と両脚で砂浜に着地し、勢いを殺し切れずにでんぐりがえって、大の字に伸びた。

「おばあさま!」

 星の娘が、思わず駆け寄った。

「大丈夫?」

「大丈夫な、わけが、あるかい。」

 大儀そうに言いながらも、老婆は即座にむっくりと身を起こし、砂まみれになった服をはたいた。

「やれやれ。――さあ、着いたよ! ここが《秘密の湖》だ。」

 老人は立ち上がり、あらためて、目の前に広がる光景を見つめた。

 目の前に広がる水面は、ほぼ半円に近い形をしており、彼らがいるのは、ちょうど、波打ち際が描く円弧の頂点にあたる場所だった。

 水辺はどこも、美しい生成り色の砂に覆われていた。

 黒や灰色の粒はひとつもまじっておらず、手ですくえば、全てが同じ色の砂から成っているのが分かった。

 今いる場所のちょうど真正面に滝があり、淵に落ち込んだ水が激しく泡立ち、勢いよくしぶきをあげているのがよく見えた。

 ごつごつとした岸壁は、しぶきを受けて鈍く光っていた。

「誰もいないようだわ。」

 星の娘は、注意深くあたりを見回しながら言った。

 彼女が言う通り、《秘密の湖》は、円弧のふちをゆっくりと歩いても1分とかからぬほどの大きさしかなく、砂浜の周囲は茨に囲まれて、妖精たちが棲んでいる気配も、旅人がいる気配も、まったく感じられなかった。

「妖精たちは、どこにいるのかしら? それに、旅人さんは?」

 ここまでの道中ずっと眠っていた彼女にとっては、さきほどの恐ろしい体験も、目覚める直前に見たおぼろげな夢のようなものに過ぎなかったらしい。

 もうすっかり忘れたような星の娘の態度に、老人ははらはらした。

 自分たちを守るために命がけで《獣》と戦ってくれた老婆には、一言あってしかるべきではないか、と、ちらりと視線を向けたが、

「あそこさ。」

 当の老婆のほうも、何も気にしていないようで、自分の槍を拾ってから、あっさりと星の娘の言葉に応えて指をさした。

「ほれ、あの、滝の裏。あそこに洞窟があってね。
 あそこが妖精たちの棲み家なんだ。
 あたしたちが急に大勢で飛び込んできたので、警戒してるんだろう。」

「洞窟――」

 老人は不意に、ずっと前に聞いた物語を思い出した。

「確か……不思議の湖の洞窟には、緑色の竜が棲んでおるのではありませんでしたかな?」

「驚いたね。」

 老婆がぐるりと向き直り、幾分かの鋭さをこめた目で老人を見た。

「それは、あたしがまだ娘っ子だったころの話さ。
 どうして、あんたがそれを知っているんだい?」

「昨夜、わしらが遠くから来た、という話をしましたな。」

 老人は穏やかに言った。

「そこに、わしらの帰りを待っておる人がおるのです。
 その人は昔、この国にいたことがあった。
 かつてこの国でどんなことがあったか、その人が、わしらに話してくれました。
 あなたのことも、孫のオニユリさんのことも――
 緑色の竜と、青い竜のことも。」

「懐かしいね。」

 老婆は目を細め、どっかと砂の上に座り込んで、昔話をはじめた。

「そう、その頃、あたしは今のオニユリよりも小さな娘っ子だった。
 その頃は、あんたの言うとおり、緑色の竜が洞窟に棲んで、この湖を守っていた。
 ――ほら、あそこをご覧。」

 老婆は灰色の岩壁のずっと上のほうを指差した。

 滝が流れ落ちてくる岩棚のふちにそって、その上に生えている植物の葉が垂れ下がっている。

「季節になれば、あそこに、たくさん赤い実がなるんだ――お茶に使う、ルビーの実がね。
 あんたたちも飲んだあのお茶も、ここの実を採って乾かしておいて、煎じたものだよ。
 あたしがこの湖への来方をよく知っていたわけは、たびたび、ここにルビーの実を採りに来ることがあるからさ。
 あたしは、師匠にあのお茶の淹れ方を習ってすぐ、ここにルビーの実を採りに来た。
 ここらあたりじゃ、あの実は、ここの崖の上にしか生えていないんだって、あたしはちゃんと知っていたからね。
 ところが、あの緑色の竜ときたら!
 意地悪をして、あたしを近づけようとしないのさ。
 あいつは、自分の親友の、青色の竜が、人間のせいで死んじまったと言って――」

 そこまで話して、老婆は急に立ち上がった。

「まあ、昔の話さ。あいつは、飛んでいっちまった。
 それっきり、ここの洞窟にも戻らないでさ。
 守り役のあいつがいなくなっちまったもんで、薔薇の女神様のおぼしめしで、ここに茨の壁がめぐらされた。
 ――あいつは、いったい、どこへ飛んでいっちまったんだろうね。
 竜はとんでもなく長生きをするから、今でも元気にしているのか、それとも……
 まあ、あたしの生きているあいだにあいつが戻ってくることは、もうないんだろうね。」

「帰ってくるわ!」

 老人が制するよりもはやく、星の娘が叫んだ。

「その竜さんは、帰ってくるわ、絶対に。この国を守るためにね。」

 老婆は驚いたように星の娘を見たが、それ以上、深くたずねようとはせず、ただ深くうなずいた。

「あたしも、そうあってほしいと願ってるよ。
 さあ、少し喋りすぎたね。
 妖精たちのところへ行って、話をしなけりゃ。」



【庭の王国への旅31へと続く】

取り急ぎ私信返し!

2015年07月12日 09:59

 取り急ぎ私信返しです☆
 以下、全面的に、両性こたつむり様への私信回となります~!


 両性こたつむり様、イオリア&スパルティアタイのコラボ小説、完結ありがとうございました~!!!(拝)
 そうだったのか……! 実はこの状況を生み出したのは◎◎◎◎さんだったのかッ……!!
 想像してみると、すごく納得のキャスティングでした(笑)
 それぞれの登場人物の性格を、言動にばっちり反映してくださっていて、嬉しかったです☆

 そして確かに、理音さんが「想像力」を使っていたら、戦闘の結果は全然違うものになっていたでしょうね!
 オリュンポスの神と間違われて恐れられていたかも……!?
「約束」があって、剣技中心の戦いになったために、このような展開がありえたのですね。
 約束したことは守るところが、理音さんの律儀さですね。
 
 今回、確定してくださった作品は、こちらで、ひとつながりにまとめた後、グランド・ギャラリーに展示させていただきたいと思います!(←展示までに、ちょっと日にちをいただくかもしれません。ご了承いただければ幸いです……)

 お忙しい中、当ターミナルのために素敵な物語を書いてくださって、本当にありがとうございました~!!(拝)

うう……

2015年07月09日 22:04

 地上の湿気のすごさにやられているアウローラです(汗)

 ここのところ、地上の業務では2つのデカい案件が完全にかぶって進行しており、それに伴ってわたくしの出動時間は毎日13時間、それが5日続いて休みの2日も連日出動(←でないと事務仕事が終わらないため)、そこからさらに13時間×4日目(←今ここ)という怒涛のスケジュールですよ。

 まあ……これほど忙しいのも珍しいので、たまには仕方がないですが……

 わたくしはあまり「要領がいい」ほうではないので、案件が重なってマルチタスク状態になってくると、なかなかしんどいものがありますね!

 何よりも困るのは、物語が進まないことです!!!

 業務が怒涛の状態に入ってから、冗談抜きで1行も進展しておりません……(汗)

 とりあえず、移動中の車内でいろいろな物語を読み、物語成分を補給している状態です。

 やれやれ……


 ――と、そんな中でもパワーをいただける記事が!

 以下に、私信返し×2です!

 
 うさぎ様、ちょっと遅れてようやく更新分、読ませていただきました~!
 まさかのシンクロ率……95%くらい!!
 やはり、フォスさんが大人の余裕で、1枚上手な感じですね☆
 ちょうど来合わせてしまったクラークさんはラッキー……じゃなくて、さぞかしびっくりしたことでしょう!
 そして、デビッドさんが「冷静さを失っている」というところにもさりげなく萌えました☆
 デニスさんのことが心配でならないのですね……
 果たして彼の身柄の奪還は成功するのか!?
 続きが待たれるところです……!!


 両性こたつむり様、イオリア&スパルティアタイのコラボ小説、またまた進展ですね!
 まさかあの理音さんが、やられてしまうとは!?
 意外な展開にハラハラしました!
 そしてクレイトスくんの危機には、必ず駆けつける隊長……!
 フェイディアス&パイアキスのコンビも活躍していて嬉しかったです☆
 一体……理音さんの目的とは何だったのか!?
 時折、理音さんの素顔?のようなものが垣間見える気がするシリーズも、もうすぐ完結ですね……!
 全ての謎が明らかになるのを、楽しみにしております!!

 
 ――というわけで、本日のところはこのへんで!
 
 下記事に拍手、ありがとうございました☆(拝)

 また次回の記事で、お目にかかりましょう~!!

私信返し!

2015年07月05日 17:56

 取り急ぎ、私信返しのコーナーです☆

 両性こたつむり様、イオリア&スパルティアタイのコラボ小説の更新再開、嬉しいです!!

 フェイディアスさんの豪放磊落さ&戦い好きなところが、すごく出ていました……☆

 理音さんは果たしてこのまま大人しく帰ってくださるのでしょうか!?(←それはないと思う……・汗)

 続きも楽しみに待たせていただきます☆

 完結の暁には、ぜひともグランド・ギャラリーに展示させていただきたいです!

 こたつむり様も、お忙しい中、着々と創作の道を歩んでいらっしゃって、わたくしも力づけられる思いです。

 サイトも、なんと8年目ということで……!

 やはり「継続は力なり」ですね。

 わたくしも、全ゲート完全確定を目指し、自分のペースで粛々とがんばります~!!

 というわけで、私信返しのコーナーでした☆


IMG_121431.jpg

 何の関係もないですが、散歩していて発見した某・神社のスイレン。

 庭でやると、が発生して大変なことになるのでアレですが(汗) やはりスイレンは風情がありますね……!

 この画像は、ちょっと前に撮影したものなのですが、その時には、ちょうどアジサイもきれいに咲いていました。

 また来年も見に行こう……


 ――ということで(?) 下記事に拍手、ありがとうございました!(拝)

 また次回の記事で、お目にかかりましょう~!!

生存確認?

2015年07月01日 22:31

 これから8月半ばにかけて、業務のヤマが順々にやってくる……!

 というわけで、地上の現場での滞在時間が1日に14時間を超えているアウローラです(汗)

 そんな中でも……

 IMG_121536.jpg

 ギンコさんたちが育てている植物たちに癒されます!

 ケープタウンブルーくんも大輪の花をたくさん咲かせていますよ。

 そして画像に写っている、明らかにアサガオ系ではない、鳥の羽根か魚の骨を思わせる「ナゾの葉」は、ルコウソウという植物の葉です。

 ヘリオスくんはルコウソウの芽を見て「ホコリか?」などと言っていましたがその頃と比べると、ずいぶんと成長したものですね!

 ちなみにルコウソウの存在は、以前、zayoさまから教えていただいたのでした☆

 ――その流れでzayoさまに私信返しですが、キメラ系植物とは面白い発想ですね!

 つまりキャプテン・バイオレットのような存在ということで……(笑)

 確かに、

(葉はヤグルマソウに似ているけれども、花のつき方が違う……
 花弁の形状はキク科の特徴をそなえているが……???)

 などと思っていたので、謎がすっきり解けました!!

 キク系の特徴は、除虫菊から来ていたのですね。

「悪い虫」を追い払うにも、効果があると良いのですが――

「フフフ……僕のギアへの愛☆ の前には、こんな花など無力なのさ!!」

 …………カース氏には、効かなかったようです(笑)


 というわけで(?) しばらくは日誌にもなかなか現れないかもしれませんが――

 とりあえず、本日のところはこのへんで!

 下記事に拍手、ありがとうございました☆(拝)

 また次回の記事で、お目にかかりましょう~!!



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